またの冬が始まるよ


“誤解の正しい解き方は?”



暖冬にすっかり緩み切っていた日本にも、
シベリアから南下してきた寒風が洒落にならぬほど吹き荒れて、
全くの全然嬉しくないレベルで、いよいよの本格的な冬がやってきた感がそこここに。
お陰様でお正月の華やかな長閑さも掻き消され、
冬物のあれはどこやった、それよりほらあれあれ、電気カーペットのカバーどこやったと、
防寒対策へ右往左往する慌ただしさがいきなり増した、
そんな一月がそろそろ終盤に差し掛かった頃合いの、
とあるアパートの二階の角部屋では。
油断すると室内でも吐息が白くなるほどの
凄まじいレベルだったこの極寒の中、
希望に満ちた旅立ちへの晴れやかさをテーマにした、
R-2000 春うらら号への原稿を描かされたゴーダマ・シッダールタせんせい。
OKが出たことへと安堵をし、そのまま、ここに居ない愛しい人への想いを馳せる。
心苦しいと思いつつ、だがだが、
微妙な悋気のせいでか、ついこの天部と逢わせたくなくって、
どうしても必要なものではないのに、買い物に出かけてもらっていたりしたからで。
…相変わらずなようですねぇ。(苦笑)

 “そろそろ帰ってくるだろうからストーブもつけとかなきゃなぁ、
  そうそう、ミルクティーの用意もしなきゃね。”

今日はまだ少しはマシだそうだけど、それでもずんと寒いのだろに、
洗濯ものを干し出すところまで、イエスに任せることになっちゃったものなぁ。
ああ、買い物なんてホントは自分が行けばいいことだったのにな。
サンダルフォンさんから勧められたインソールのおかげで
速足の威力が増して、
商店街までなんて あっという間に辿り着けるのに。
…と、そこまでを思ったところで、
遠来の編集者に向かって ふと思い出したことを尋ねており。

 「そういえば、足下安平立相のことですが。」

それもまた仏としての特徴、三十二相の一つ。
土踏まずがないくらい 足の裏が平らで安定している、というアレを
ふと思い出したブッダだったのは、
この厳寒に効果的だという防寒仕様のインソールを、
イエス経由という格好、サンダルフォン氏から先日差し入れされたからで。

 「ああ、帝釈天に問い合わせたそうですね。」

意味するものは“慈悲の平等”。  
だがだが、それを設定した天部の一人に聞いたところ、
実は 歩くのに支障が出よう“隠れ苦行”だったとのことで。
ちなみに、手と足に法輪の模様があるという足下二輪相は
“人々の迷いを静める”という意味があるらしい。

 「苦行や試練がお嫌いだったとは意外ですよ、シッダールタ。」

 「相変わらず、弁舌が周到というか、
  ああ言えばこう言うってのへは長けてますよね、梵天さん。」

さすがは宇宙創成の神だからか、怖いものはないようで。
持ち出す論もその組み立てには隙なんてないままに周到。
一見丁寧な礼儀正しさに見える態度も、
ブッダに言わせれば慇懃無礼なだけという御仁、もとえ尊であり。
そういう相手だと判っておればこそ、
彼からの言いようもそのまま受け取れず、
過ぎるほどに用心深い身となったのだと言えて。

 「何にも知らない、気真面目なばかりだった修行僧相手でしたから、
  そりゃあもうもう 何だって盛り放題の詰め込み放題だったのでしょうが。」

何でまたああも意味不明なものばかりをと、
常々疑問に思っていたこと。
人里に降りてきたら成敗されかねない姿だろうにと思っておれば、
そのうちの一つが実は…なんて聞いてしまっては、
ついついその元締めにあたろうこの梵天へもじかに物申すしたくなったようで。

 「おや、何か支障でも出ましたか?」
 「もしかしたら出ていたのかもしれないって話をしたいんですよ。」

よくもまあ要らぬことをと、憤懣を言い立てようとしかかったものの、

 「そりゃあまあ、運動能力も優れていたあなたなだけに、
  あのような相を付け加えていなければ、
  お傍衆だった弟子たちも遥か後方へ置いてけぼりという加速で
  鬼のような布教の旅を敢行していたかもしれませんが。」

 「う…。」

これまた正論…に聞こえるお言いようを返されて、
根は真面目で誠実なブッダとしては、
何でもかんでもへ噛みつきも出来ず、
結果として口ごもってしまうほかはなく。

 「ですけど、そんなに不便ですか?」

編集者としてのお務めは終えたのだしと、どら見てみましょうと腰を上げ、
こたつの縁を回ってきた梵天であり。
狭いお部屋だ、ほんのひとまたぎというそんな態度を取られ、

 「え…?」

口先三寸でお終いかと思っていたこちらとしては、そうと踏み込まれたのが意外や意外。
はい?と、信じられないものでも見るような顔になり、
座ったまま見上げてくるブッダなのへ、

 「如来としての奇跡や功徳を極力隠さねばならない現状へ、
  支障が出てしまっては意味がないでしょう?」

口許をやんわりと笑みの形へほころばせた彼なれど、

 “せっかくのバカンスだというのではなく、
  イエスにひょいひょい逢えなくなるでしょう?に違いないと
  思えてしょうがないんだけどもな。”

それも、ブッダがではなく梵天自身がという方向で…と、
途切れることはなさそうな疑心暗鬼を抱えつつ、
それでもまま、このままでいて相の方へ不具合が出ても何だからと、
ほだされてしまうところが、釈迦牟尼様の人の良さ。

 「椅子のないお宅だから、そうですねぇ、このテーブルに腰かけて。」
 「こたつへですか? そんな行儀の悪いこと出来ませんて。」
 「ですが、畳に座ったところから足を上げるとなると、
  何とも間抜けな構図になりますよ?」

後ろ手に畳へ手をついて、ほいと片足を上げてる構えというのは、
成程 地べたであん馬の練習ですかという雰囲気に さも似たりでもあり。

 「…判りました。」

そんなやり取りの末、
茶器をどけたこたつの天板の上へと腰掛けたブッダが、
体がぐらつかぬよう、体重を多少は加減するよう、
両手を天板の縁に掛ける格好で姿勢を支えつつ、
ほらと片足を膝あたりの高さまで上げて見せ。
どれどれと、こちらは割り座という格好で間際へ座ったままの梵天が
その足を手に取りかけていたその時だ。

 「ブッダ、ただいま〜。」

例によっての人払い、
寒いお外へお買い物にと出かけていた
ブッダのシェア友で、実は愛しい伴侶様でもある
ヨシュア様こと神の子イエスが、それは元気よく帰還したものだから。

 「あ…。」

物事に置ける間合いの善さ悪さというのはどこにでも転がっているもので。
ありゃまあ、お茶を沸かすの間に合わなんだと、
ブッダとしては、まずはそれを残念と感じたようだったれど。

 「ブッダ、生クリームって低脂肪の方がよかったの?
  今日の売り出しは普通の方だって売り場の人に言われて、
  とりあえずそっちを買ってきちゃったけど。」

買う前にスマホで確かめた方がよかったかなと、
さして量はなかったらしいお買い物を入れたそれだろう、
スーパーのビニール袋をシャワシャワと鳴らし、
バタバタと賑やかに上がってきたのが。
ダウンジャケットに首にはスヌーヴ、
真新しいニット帽に手にはミトンをはいたままという、
ご当地では十分すぎる防寒装備で固めておいでの、イエスだったのだけれども。

 「……え?」

朗らかな笑顔は、まるでご機嫌なお散歩から戻ったばかりの子犬のようでもあり、
寒かった風の音さえ楽しいBGMだったのと言い出しそうな口許が、
それでねと何か続けかかっていたものが。
そんな表情を不意に凍らせ、手足ともどもそこで立ち止まらせてしまい。

 「イエス?」

何なになに? 何かいる?
キミも私と同じで、亡者は怖くないはずだし、
此処へ現れる猛者はそうそうはいないけどと。
何へそうまでハッとしたのか、問うような顔で訊き返しかかったブッダだったのへ、

 「そ、そんな…。」

何にそこまで衝撃を受けたのか、
驚愕に目を見張り、やや険しい表情を堅いまま表して。
総身を凍らせ、ガクガクと後ずさりまでしかかる始末。

 「いえす?」

そちらへは恐らく特売の白菜が入っているはずのトートバッグを
重力に負けてというノリで肩からずり落とした彼の、あまりの不審な様相へ、
梵天の方まで…愛想の良いご挨拶も忘れ、キョトンとして見守っておれば、

 「キ、キミたちがそんな間柄だったなんて…。」

  はい?

仏界側の二人がほぼ同時に同じ疑問符を思い浮かべたのを吹っ飛ばすよに、

 「〜〜〜っ。」

何をか…もしかして双眸に浮かんでいたかもしれない涙をか
吹っ切るような鋭さで身をひるがえすと、
ばたばたばたと、今入って来たばかりの玄関へ踵を返したヨシュア様であり。

 「え?    …あ!」

何が何やらと合点がいかなんだのも一瞬だったのは、さすが機転の素早い聡明な如来様。

 「待って、イエスっ!」

上げてた足を慌てて下ろし、一歩を踏み出しかけたものの、
くどいようだが狭いお部屋で、すぐの間際に居た恰幅のいいお人が邪魔。

 「退いてください梵天さ…あ、待ってってば!」

苛立ち半分、慈愛の如来らしくもないが相手が相手なら致し方なしか(笑)
邪魔だという含み大有りな言いようを発したと同時、
外へのドアががちゃんと閉じた音がして、

 「あ…。」

そちらへ伸ばしかけていた手もむなしく宙を撫でただけ。
失望を掴んで閉じられた手を力なく落としたブッダなのへ、

 「一体何へ驚いてらしたのでしょうか、イエス様は。」

依然としてそんな言いようをする天部だったものだから、
失望があっさりとお怒りへ転じたらしい釈迦牟尼様。

 「判らないとは大した自信ですねぇ。
  先程の我々の取ってた構図は、
  流れを知らずに見た場合、微妙に退廃的でもあったというに。」

慈愛の如来が瞬発よくイラッと来るほどの挑発だとは、
全く気付かなかった彼だったのを証拠づけるよに、

 「構図って…」

特に警戒もないまま、椅子に腰かけているような構えのシッダールタの前で、
スーツ姿の私が、座ったままの態勢で彼の足を手に取っていて……


  「イエス様っ、誤解ですっ!」
  「遅いですよ、もうa.gif


さあ、大変だ。







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 *微妙な話ですいません。
  しかもこんなところでぶった切っててすいません。
  梵天さん至上主義の方はおいでじゃないでしょうね。
  ウチの彼のポジションは
  食えないお父さん、ただしイエス様至上派です。
  ネタばれになりますが、今回は珍しく振り回される側です。
  最強な梵天様しか認めない方は お覚悟を。(笑)


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